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1. DX Criteria 策定の目的とビジョン
私たちの"DX"の捉え方
デジタルトランスフォーメーションという言葉は、2004年、スウェーデンの大学教授であるエリック・ストルターマンによって発明されました。
彼は、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」こととしてDXを定義しました。情報と現実がリンクし、デジタル上のオブジェクトが社会的な実体をもち、現実と融合していくことで社会がより便利にそして豊かになっていくこととして定義づけました。
この言葉は具体的なサービスや事業についてを指しているわけではありません。これから起こる「社会の変化」について述べたものです。
それから十数年が経過し、実際に社会には目まぐるしい変化がおきました。VUCAの時代、不確実性の時代などと言われながら、目まぐるしい環境の変化が起きる中で、それに合わせて企業も組織もどんどんと変わっていく必要に迫られることになりました。
そして、これからもそのような急激な社会変化が続いていくことが予想されます。成長が「当たり前」な時代から、変化こそが「当たり前」であるという時代に変わっているのです。
そのため、これまで経済、社会、そして自分たちの業態がそのままでよいのかという「問いかけ」が多くの企業に投げかけられることになりました。
つまり「私たちは10年後、20年後も今のままで生き残ることができるのだろうか」という問いです。
私たちは、デジタルトランスフォーメーションという言葉をこの「問いかけ」のことだと捉えています。デジタルという言葉が使われておりますが、決して技術者やソフトウェア事業者を対象に限定された事柄だとは考えていません。
もし、みなさんの企業がこの社会的変化の中で活路を見出せているのであれば、それはデジタル技術と関係のないところにあっても何も問題はありません。過度に不安を煽るだけの「DX」であってはいけないと考えています。
超高速な仮説検証能力の必要性
世の中が大きく変わる中では、個々の事業予測や特定のテクノロジーよりも、変化に対しての組織的な適応力こそが重要になってきます。これをダイナミックケイパビリティといいます。
ダイナミックケイパビリティとは、カリフォルニア大学のデイヴィッド・J・ティースによって提唱された戦略経営論で、「ものづくり白書2020」においては「環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力」と説明されています。
変化が小さい時には、変化の兆しからあらかじめ起こることを予測し、それに対して自分たちが何をすべきかを計画し、それを効率よく遂行することが組織に求められる能力でした。効率化が価値を持ち、それが競争力に変わりました。
しかし、変化が大きい時代になるとあらかじめ予測して何かを計画するのではなく、変化に合わせて素早く行動をするものが競争力を得る時代になったのです。
顧客や社会の変化を捉え、それに合わせた仮説を立て、素早く失敗し、学ぶという「仮説検証能力」こそが効率化や大量生産に変わる新しい時代の企業の競争力の源泉だといえます。
ソフトウェアサービス事業者たちが獲得しようと試行錯誤してきたさまざまなプラクティスや文化は、まさにこの「高速な仮説検証能力を得る」ということにフォーカスされてきたものです。
私たちはその中でも
- 変化に柔軟な<システム>を維持し改善し続けるための能力
- 経験に基づいて価値のアウトカムを最大化できる<チーム>能力
- 顧客の深いインサイトを捉え、価値ある仮説を立て、高速に検証できる<デザイン思考>能力
- データを正しくあつめ、分析し、意思決定し、価値につなげる<データ駆動>能力
- 新たな人材を獲得、育成、評価し適切な変化を実現できる<コーポレート >能力
に着目し、それらの能力の発露となる習慣を言語化し共有することで「デジタルトランスフォーメーション」という問いに対する「超高速な仮説検証能力」という答えの1つを提示します。
デジタルトランスフォーメーションを掲げるために、戦略は重要です。一方で優れた戦略を実行するためには、組織としての基礎体力の部分がともなう必要があります。
「小学生がプロ野球選手からホームランをうつ」のに必要なのは、体を作っていくことであって球種を読むことではないはずです。
2つのDX
日本CTO協会では「DX」という言葉を2つの意味で捉えています。
一つは、これまで述べてきた企業のデジタル変革を意味する「Digital Transformation」です。
もう一つはソフトウェア開発者にとっての働きやすい環境と高速な開発を実現するための文化・組織・システムが実現されているかを意味する開発者体験「Developer eXperience」です。
私たちはこの「2つのDX」は欠かすことのできない車の両輪のようなものだと考えています。
多くの企業にとって「開発者体験の良い環境でのシステム開発」というのは、事業のコアコンピタンス(競合他社に真似できない核となる能力)ではありませんでした。ITは外部に任せきりになることが常で、管理部門がもつコストセンターの一つとして扱う企業も少なくありませんでした。
そうなると、ソフトウェア開発におけるノウハウや、良い文化、育成評価方法などの文化的な資本を持つことがなかなかできませんでした。そうすると、いざ事業活動により深くソフトウェアを活用したり、事業形態そのものを変えていこうとしても、自分たちでソフトウェアをコントロールすることができずに「技術的負債」となってしまったり、誰も使わないソフトウェアが出来上がってしまうのです。
組織が持つソフトウェア開発のための文化資本は目に見えないため、しばしばわかりやすい効率化や費用対効果にのみ着目し、文化的な競争力をおろそかにしてしまいます。そのため、開発者体験の悪化に気がつかず、人材が離れたり、システムの改善がどんどんと遅くなり企業変革そのものを阻害してしまうのです。
このような「2つのDX」を一体として捉え、320個の現代的で具体的な文化資本の発露となる習慣をリストアップしたものが本DX Criteriaです。